第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*
「桜、やっと起きたか。とにかく何か腹に入れろ」
「ありがとう、政宗」
政宗が土鍋の蓋を開けると、お粥のいい匂いが桜のお腹を刺激する。盆に乗った小さな皿に乗るのは、果物と。
「梅干し…」
「どうした?」
「ううん…いただきます」
小さな椀によそってもらったお粥をひとすくい。ふーふーと冷まして口に運べば、優しい味が染み渡る。
「おいしい」
「良かったな」
「食べたら、これ飲んで」
「うん」
力強く頷く政宗の横から、家康が薬の包みを差し出してくる。少しずつとはいえ食べ続ける桜の様子に安心し、二人はまた来ると言いおいて出て行った。
一人になり、静かな部屋の中で、お粥をすくう匙の音だけがする。空になった椀に、土鍋から新たにお粥をついで、箸で梅干しをほぐす。椀のお粥と一緒に、口に入れれば、その酸っぱさにため息がこぼれた。
食事を終え、薬を飲んで一息つくと、もう外は日が暮れていた。長時間寝続けたせいでまんじりともせず、桜は褥の上で寝転んでいた。
時折ひどい咳が出るけれど、横になっている分には眠らなくても支障はなさそうだ。そのまま空っぽの頭で天井を眺めていると、隅の板がかたんと音を立てる。
「もしかして…佐助君?」
「当たり」
しゅたっと部屋に着地した佐助は、褥の上に起きあがった桜の顔をじっと見る。
「少し顔色が良くなったみたいだね。安心した」
「もしかして、昨日来てくれた?…私、あんまり覚えてなくて」
「無理もない。本当は今日もどうしようか悩んだんだけど…あんまり悠長にしていられなかったから来たんだ」
「どういうこと?」
桜から目をそらして逡巡したのち、佐助は口を開いた。
「君は、謙信様の事が気になっているんじゃない?」
「え…」
佐助の言葉は、桜の心に大きな波紋を落とした。凪いでいた気持ちが、大きく揺らぎ出す。
「どう、して?」
「俺は色恋沙汰には疎いけど、二人がお互いを気にしている事くらいは分かる。謙信様はもう、君に会うつもりはなさそうだから、俺が君の意思を聞きに来た」
「意思…?」