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【イケメン戦国】紫陽花物語

第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*





「幸、なんでそんなに機嫌が悪いんだ?」

「別に、悪くねーです」



謙信の根城である町屋敷には、信玄と幸村が押し掛けて酒盛りをしていた。飲み続ける謙信の横で、甘味に手を伸ばしていた信玄は、ぶすっとした幸村に苦笑する。

当の幸村は、ずっと桜の立ち去る後ろ姿が頭をちらつき、そのたびに謙信に苛立ちを覚えていた。様子を見に行ってくれている親友のことも、気になって仕方がない。先ほど出て行ったばかりだというのに。



「幸村、暇なら酌をしろ」

「はいはい…」



涼しい顔の謙信が、幸村に声をかける。釈然としない気持ちを抱えながらも、仕方なくそばに寄った。徳利を手にしたのと同時に、屋敷の玄関ががらりと音を立てる。



「ただいま戻りました」

「佐助…?」

「お帰り、佐助」



幸村だけでなく、信玄も、謙信も、佐助の違和感に気がついた。無表情なのはいつも通りだけれど、その目には珍しい感情が浮かんでいる。



「どうしてた、あいつ」



開いた席に腰を下ろす佐助に、幸村が静かに問いかけた。皆で囲む囲炉裏をじっと見つめる瞳が、火に照らされて光る。



「風邪を引いて、寝込んでた。熱がかなり高くて、話が聞ける状態じゃない」

「は…っ!?」



目を剥く幸村の横で、謙信がぴくりと反応する。佐助はそれを見逃さなかった。事情を詳しく知らない信玄が、一人首をひねる。



「それは心配だな…なんで、そんなことになったんだ?」

「謙信様のせいですよ」

「…雨の中を勝手に帰ったのはあの女だろう」



横目で睨む幸村に、謙信がぼそりと呟いた。むっとして言い返そうとした幸村を、佐助が抑える。



「謙信様、お聞きしたいことがあります」

「…言ってみろ」

「謙信様は、桜さんをどう思っているんですか」

「……」



淡々と言葉を紡ぐ佐助と謙信が、しばし無言で見合った。にらみ合っていると言ってもいい程の、冷たい空気。

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