第26章 それゆけ、謙信様!*氷解編*
「おい、何してるんだ?」
「見て下さいよ、あれ」
政宗が、城の入口から外を覗いている家康に声をかけた。そっけない仕草で家康が指さす方を見れば、城門の傍に腕組みをして仁王立ちする秀吉と、心配そうに佇む三成の姿。
「ああ、桜がまだ戻ってないんだろ」
「あの二人、さっきまでこの辺りで待ってたんですよ。段々移動してる」
呆れた口調の家康に、政宗が口の端を吊り上げる。
「秀吉達が動いてることに気が付くほど、お前もよく通りかかるみたいだな?」
「っ…たまたま見かけただけです」
「へえ?じゃ、俺が桜を迎えに行っても文句ないよな」
「勝手にすればいいでしょう。嫌がられるのが目に見えてますけどね」
政宗から視線を外して、家康は同じ気持ちを抱いてるであろう城門の二人を眺める。
春日山の連中が彷徨いている可能性は無ではないし、すぐに帰ってくると言って出て行ったにも関わらず、既に昼になっている。
しかし、さすがに迎えに行くのは過保護極まりない。それで皆こうして、そわそわと桜の帰りを待っている、というわけで。
「見てみろ、光秀」
「何でしょう」
一方、天守で大会後の仕事の進捗を信長に報告していた光秀。面白そうに笑う信長の横まで進み出て、同じように下を眺めてみる。
「あれは…秀吉と三成ですか」
「まるで子供の帰りを待つ父親だな」
堪えきれずに小さく声を出して笑いながら、信長がひらりと羽織をなびかせ歩き出す。
「どちらへ?」
「下へ降りる。桜が戻った時の秀吉の顔は、さぞ見物だろうからな…貴様も来い」
「はっ」
後に続く光秀も、信長に気付かれぬよう頬を緩ませる。秀吉と、信長と。そこにあるのは、感情を表に出しているかどうか、の差だけ。