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【イケメン戦国】紫陽花物語

第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*





「おい、桜」



耳元で聞こえる幸村の声にはっとする。頭に感じる簪の重さにぼうっとしていた意識を目の前の幸村に向ければ、目があった途端に反らされる。



「来い。俺が城のそばまで連れて行ってやる」

「うん」



幸村は簡単に店じまいをすると、桜を促し屋台の裏から町屋敷の並ぶ通りを進んでいく。



「うちの主がお前の事呼び出したりするから、ややこしいことになっちまった。悪かったな」

「大丈夫だよ。それを言うなら、出て来た私も悪いんだし」

「ま、そりゃそーか」



軽口を叩き合いながら、市の表通りに比べて閑静な通りを二人で歩いていく。幸村は通りを横切ろうとする度に一度立ち止まっては、謙信の姿がないか確認をして。



「信玄様って、面白い人だね」

「そうか?俺にとっちゃ世話の焼ける主だけどな」



幸村の言葉に、桜がふふっと笑い声を上げる。



「確かに、幸がうるさいって何回も言ってた」

「俺だってうるさく言いたかねーよ」

「幸村は、口が悪いしね」

「悪かったな!」



むっとして言い返した幸村に、桜はからかうように笑う。



「信玄様はあんなに優しいのにー」

「……」

「わっ」



急に立ち止まった幸村の背中に、後ろからついて来ていた桜がぶつかった。何、と尋ねる前に、振り向いた幸村の怒ったような目で射抜かれて、桜は何も言えなくなる。



「お前、信玄様が好きなのかよ」

「え…」



何を言い出すのかと思えば。咄嗟に笑い飛ばしてしまおうかと思うけれど、幸村の目は真剣そのもので。


信玄様…?


確かに優しかったし、所作は丁寧だし大人の余裕もあって、恋仲になる女性は幸せかもしれない、とは思ったけれど。

考えて黙ってしまった桜の姿に、幸村は焦れたように一歩踏み出す。その距離の近さに桜が思わず後ずさると、背中が町屋敷の外壁に触れた。



「幸村、近い…あっ」



幸村の体を押し戻そうとした手がつかまれて、ぐいと引っ張られる。桜の体は、幸村の腕の中にぎゅっと抱きしめられていた。

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