第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*
「謙信様!」
ようやく追いついてきた幸村達が、謙信の側まで来て政宗達と対峙する。
「おい、休戦中だろ。刀しまえよ」
「そっちの将が大人しく下がるならね」
幸村の言葉に家康が答えた。それが聞こえていないはずはないが、謙信は動く気配を見せない。視線をぴたりと桜に据えたまま。
「け、謙信様…?」
市で会った時には、自分に興味など微塵もない様子だったのに。謙信が危険を冒してまで自分の元まで来た理由に、桜は見当がつかない。
「桜様、危険です」
「こっちにおいで、桜」
謙信の名を呼んだ桜の体が、ぐいと後ろへ引かれた。左から光秀が、右から三成が。それぞれ腕を掴み桜を立ち上がらせる。
「待て、桜」
「誰が待つか」
「桜を助けた事と、休戦中なのに免じてやる。このまま大人しく帰れ」
桜に謙信が声をかけるけれど、政宗と秀吉が立ちはだかる。
「謙信、そのぐらいにしておけ」
のらりと現れた信玄が、余裕たっぷりに笑いながら謙信の肩を叩いた。
「武田信玄…貴様も来ていたか」
「お前の顔なんか見たくはないが、いつまでも傍観してるわけにも行かなくなったんでな」
信長を睨んだ信玄は、桜と目が合うと悪戯っぽく目配せをした。
「…三成、早く桜をこいつらの目の届かない場所まで連れていけ」
「ああ、それがいい。桜が汚れる」
「本当に失敬な奴らだな」
政宗の忌々しげな言葉に、光秀が大いに頷き。酷い言い草に信玄が不満を漏らした。
「参りましょう、桜様」
「え、うん…」
いつもの笑みを引っ込めた三成が、桜を伴い足早に進む。謙信が桜を呼ぶ声がまた響いて、咄嗟に振り向こうとしたその体は、光秀によって急かされた。
それでも無理に顔だけで振り返った桜を、謙信はじっと目で追いかける。それを遮るように信長が立ち上がったのを最後に、桜は騒動の渦中から退場させられたのだった。