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【イケメン戦国】紫陽花物語

第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*




何が起きたのか、桜には分からなかった。正直に言って退屈な演武を、欠伸を我慢しながら見ていたら、にわかに騒がしくなって。

駆け寄って来る人の姿を認めたけれど、それと同時に異質な音が響いて。それが模擬戦をしていた男の槍が折れた音で、もしかしたら自分に突き刺さっていたのかもしれないと気づいたのは、弾かれた槍がどっと地に落ちた音を聞いた後だった。



「……」

「…っ」



槍を刀で弾いた姿勢のままで、謙信が無言で桜を見ている。とにかく桜は今、頭が混乱していた。


私を助けてくれたの?
謙信様、何でこんな所に。
大変、安土にいる事がバレてしまった。



何か言わなければと思っている桜を見つめたまま、謙信は刀を収め、その手を桜へと伸ばす。



「…おい」



静まり返った空気の中。怒気を含んだ政宗の声と共に、複数の刀が同時に抜かれる音が響いた。

桜を守る様に謙信に狙いをぴたりと定める刀は、三本。さすがに謙信は、動きを止めざるを得ない。



「何故お前がこんな所にいる」

「上杉謙信…わざわざ首を置きに来たか」

「この子に触れるな」



政宗、秀吉、家康。三者三様に言葉を放つ彼等の顔には一様に怒りが浮かび、謙信を睨みつける。



「来るかとは思っていたが、まさかのこのこと顔を出すとはな」



桜の横で悠然と座ったままの信長が、愉快そうに肩を揺らす。謙信は未だ、顔色一つ変えずに佇んだままだ。



「お前達になどわざわざ会いに来ずとも、次の戦で存分に楽しませてやる。俺が今用があるのは、お前だ…桜」

「え…」



名指しされてびくりとする。秀吉がすかさず桜を守る様に体を割り込ませるけれど、謙信の瞳は桜を捉えたまま。

その鋭い視線から、何故か目が離せない。謙信に対する恐怖から来るものとは少し違う感情が、桜の心臓を走らせる。


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