• テキストサイズ

【イケメン戦国】紫陽花物語

第25章 それゆけ、謙信様!*猛進編*





「…どうだ?佐助」

「大丈夫そうだ。人が多いから」



技能大会が始まる直前。会場の入り口には、春日山の四人の姿があった。佐助が一人会場の中を探り、幸村に頷く。

既に出場者と観戦者でごった返し、四人がそれに混じった所で気づかれることはなさそうだ。佐助の先導で人混みに紛れ、天幕の陰に陣取る。



「始まったな」



信玄の言葉通り、最初の出場者が進み出て信長達に向かって一礼する。

弓の実力を披露するつもりのようだが、最初だからだろうか、緊張に震える男の手では上手くいくはずもなく。放たれた矢は的をかすり地に落ちた。



「緊張しすぎだな」

「俺も出場すればよかった」

「…はあ?なんでだよ」

「そうしたら、桜さんと家康さんに俺の忍術を披露出来たのに」

「桜はともかく…つーか、無理だろ。バレるだろ」



無表情の佐助が、珍しく悔しそうにしているのを、幸村が呆れて見ている頃。



「…なんか背中がぞわぞわする」



審査のために筆を走らせながら、家康が正体不明の悪寒に体を震わせていた。



「…期待外れだなー」



出場者を順番にじっとみていた信玄が、ぼそりと呟いた。弓、馬、刀、算術。順番に披露される技能は、特筆するほどの能力を持つ者が現れる気配もない。

それもそうだろう、武将達は審査をする側だし、実力のある家臣達はこの大会の補助に回っている。信長が用意する褒美を目的に参加している者もいるほどだ。



「わざわざ来る必要もなかったな…謙信?」

「……」



苦笑しながら見た謙信は、しかし無言でじっと演武を見つめている。いや、厳密にいえばそれは正しくはない。

最初の出場者が弓を外した瞬間から、謙信は既にこの大会自体には興味が無くなっていた。その後も続く子どもの遊戯のような、程度の低い演武などから視線を外した謙信の目は、自然と審査席へと向かっていた。

居並ぶ武将達の中に、一つだけ花が咲いたように浮かぶ笑顔。隣に座る織田信長や明智光秀と話し、菓子を頬張って嬉しそうに微笑み。


…なぜだ。


やたらと腹が立つ。あの女が笑顔を浮かべているのを見て、謙信はむかむかとした気持ちが湧いてくるのを抑えられない。
/ 399ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp