第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
「こんばんは、桜さん」
その日の夜。
いつもの音をさせて、いつもの言葉と共に佐助が顔を出した。
「いらっしゃい、佐助君」
「この前の言葉に甘えて、今日はただ桜さんのお茶を飲みに来てみた」
座布団に行儀よく腰を下ろして、澄ました顔でそう告げる佐助。それが可笑しくて、桜はふふふと笑った。
「じゃあお茶淹れるね…あ、今日はお菓子もあるよ」
「へえ、それは楽しみだな」
桜はお茶を出来るだけ丁寧に淹れて、信長から褒美にもらった金平糖を添えて佐助へと差し出した。
「ありがとう。金平糖なんて、珍しい」
「信長様からなの。どうぞ」
「織田信長の金平糖…」
一粒手に取った佐助は、どこか感慨深げに金平糖を眺めて。おもむろに口に入れた。しばらく味わって、美味しい、とぽつり。
「昼は、ごめん。仲良くしてくれればと思って君と謙信様を二人にしたけど、あの後幸村に怒られた」
「気にしないで…まあ、会話が続かなくて大変だったけど」
眉が少し申し訳なさそうに下がっている佐助に苦笑して。幸村が、桜の話を馬鹿にしながらも良く聞いていて、佐助に注意してくれたことに嬉しさを覚えた。
「今日は謝りたかったのもあるけど…君が幸村と昼食を一緒に食べたって聞いて。俺も負けてられないって思ったんだ」
「負けてられないって?」
「君と二人になりたかった、ってこと」
桜をまっすぐに見つめてくる佐助の目は真剣そのもので、胸が不自然に波打つのを抑えられない。
「いくら幸村と昼間仲が良くても…桜さんの部屋まで来られるのは俺の特権だから」
「う、うん」
頬が火照る桜を見つめる佐助。その顔には嬉しそうな微笑みが浮かんでいたけれど、はっと顔を上げると立ち上がった。
「残念だけど、タイムリミットみたいだ。…桜さん、また」
「気を付けてね、佐助君」
案じる桜に微かに笑って、佐助は音も無く姿を消した。
「桜、いるか」
「どうぞ」
仕事の労いのために顔を出した秀吉が、桜の顔を見て怪訝そうにする。
「顔が赤いぞ、大丈夫か」
「っ大丈夫」
火照る頬は、まだ熱い。