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【イケメン戦国】紫陽花物語

第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*





「大儀であったな、桜」



隙間なく埋められた名簿から顔を上げて、信長は満足そうに頷いた。仕事が終わった事を実感して、桜は自然と笑顔になる。



「ありがとうございます」

「もう貴様に仕事はないが、大会には共に来い」

「はい、分かりました」



ああ、と思い出したように信長は懐に手を入れる。取り出したものをぽい、と桜へと放った。慌てて受け取った桜の手に、御馴染みの金平糖。



「褒美だ」

「ありがとうございます」



ニヤ、と笑った信長に頭を下げて、天守を辞した。そのまま部屋に戻ろうと、廊下を進んでいく。通り道にある部屋から、書類を手にした家康が出て来た。



「仕事、終わったの」

「うん、さっき信長様に報告してきたよ」

「随分早かったけど…ごまかしてないよね」

「そんなことしないよ!」



慌てる桜に、家康が小さく噴き出す。



「慌てすぎ。冗談に決まってるでしょ」

「だって、家康なら言いかねないから」

「…ものすごく心外なんだけど」



不満そうな家康に、今度は桜が噴き出した。その軽やかな笑いに、家康も微笑み返す。



「ま、何にせよ…お疲れ」

「ありがとう」

「ゆっくり、休みなよ」



じゃあ、と言葉を残して、家康は書類を抱え直して去っていく。自分の方がよほど疲れているはずなのに、家康を始め武将達は桜の事ばかりが気にかかるようだ。

部屋に戻り、お茶をいれて座布団にだらしなく座り込んだ。行儀が悪いけれど、今だけはいいか、と言い訳をして。



『戦に生き、死ぬことが俺の全てだ』



湯呑みから立ち上る湯気をぼんやりと眺める桜の脳裏に、謙信の言葉が思い出される。


殺し合い、なのに。


何度考えてみても、桜には戦の事を生き生きと語る謙信が理解できそうになかった。刀を振るい、命を賭けて戦う事の何処が楽しいのか。


…でも。


お前のような女に理解してもらおうとは思わない、と言った謙信の瞳は、何処か憂いを帯びていたような気がする。

コトン、と湯呑みを置いて息を吐いた。理解し合う日が来るかどうかはさておき、もう会うことは無いだろう。

桜はころんと横になり、そのまま昼寝を決め込んだ。
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