第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
「はー、終わった…」
最後の店を出たところで、桜は思わず全身から力が抜けた。念の為、手にした名簿を上から下までもう一度確かめる。
うん…全部埋まってる。
謙信が姿を消してから、桜は我に返り仕事を再開させた。謙信は既に桜から興味をなくしていそうだったけれど、もう一度会いたいとは思わない。それで迅速に、即急に。自分でも驚く程の集中力で仕事を進めて、今は昼を少し過ぎたあたり。
「お腹すいたな…」
名簿を懐にしまってから辺りを見回していると、見慣れた赤い着物が通りの反対側を歩いている。
「幸村!」
「おー、何してんだお前」
駆け寄った桜に気付いた幸村が立ち止まる。
「昨日の仕事の続き。ちょうど終わった所なの」
「ふーん…飯は?」
「え?まだ、だけど」
「俺も今からだけど…お前も来る?」
照れ隠しなのか、眉を寄せた幸村は桜から視線を反らして、ぶっきらぼうに告げた。
「うん、行きたい」
「じゃ、美味いとこ連れてってやるよ」
にっと笑った幸村は、桜を連れて食事処へと入る。二人とも注文を済ませてから、幸村はそういえば、と桜を見た。
「あの後謙信様に会ったか?」
「うん、今朝会った…無茶苦茶だね、あの人」
「…なんかあったのか?」
お茶を飲みながら問う幸村に、桜は順を追って説明した。その間に注文していた食事も来て、食べながら話を続ける。
「まさかお団子を口に突っ込まれるとは思わなかった」
「それまでぼけっとしてるお前もどうかと思うけどな」
馬鹿にするような口調で笑う幸村に、桜はきっと目を吊り上げる。
「別にぼけっとなんてしてなかったよ」
「ほんとか?お前が自分で気づいてねえだけじゃねーの」
楽しそうに笑う幸村に反論する代わりに、精一杯にらみつける。それに気づいた幸村は、とりなすようにコホンと咳払いした。
「美味いだろ?ここ」
「うん、すっごく美味しい」
話を逸らされたことに苦笑しつつ、桜は素直に頷く。幸村は自分の宝物を自慢するような、少年のような笑顔で、だろ、と破顔した。