第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
「い、いい天気ですね」
「普通だろう」
「そうですね…」
「……」
「謙信様もお団子、いかがですか」
「いらん」
「……」
「……」
…気まずい。
とにかく。と前置きした佐助は、「せめて団子を食べ終えるまでは桜のそばにいてやれ」と謙信に説教をしたあと、さっさと姿を消してしまった。その後ろ姿に桜が泣きつきたかったのは、言うまでもない。
仕方なく、さっきから会話をしようと声をかけるけれど、全て容赦なく叩き落とされてなす術が無い。嫌な汗をかきながら、桜は最後の団子を頬張る。
「…謙信様は、城の技能大会を見にいらしたんですよね」
共通の話題を探して、苦し紛れに出た話題。謙信はギラリと瞳を輝かせて、口元に獰猛な笑みを浮かべた。
「休戦中とはいえ、敵が手の内を披露してくれると言うのだ。当然だろう。もし骨のある奴が多ければ、その分戦の時に楽しめる」
「何故そんなに…戦がお好きなんですか?」
桜の言葉に、謙信が眉間に皺を寄せる。
「何故そんな事を聞く」
「っすみません…ただ気になっただけで」
機嫌が悪くなりそうな謙信に、桜は慌てて弁解した。純粋に疑問に思ったことが、つい口を出てしまった。
「…強い者と刀を交え、己の命を懸けて戦う瞬間にこそ、俺は生を実感する。戦に生き、死ぬことが俺の全てだ」
「何があなたを、そうさせるんですか」
「…なんだと」
桜の言う意味が分からず、謙信はその顔を見た。謙信を見つめ返す瞳には、どこか同情するような、寂しそうな感情が浮かぶ。
「殺し合いが生き甲斐だなんて…私には、分かりません」
「分かってもらおうなどとは、思わん。特に…お前のような女にはな」
桜の手元をちらりと見て。皿が空になっていることを確認した謙信は、のっそりと立ち上がった。
「これで義理は果たした。もうお前に会う必要もない…」
「お団子…ありがとうございました」
律儀に頭を下げる桜を鼻で笑って、謙信は歩き出す。
「斬られたくなければ、もう俺に近づかないことだ」
そのまま、雑踏の中へと消えていく。何も言えずにいる桜を、ひとり残して。