第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
謙信との遭遇を果たした翌日。桜は廊下を歩きながらため息をついて、手にした紙に視線を落とした。
それには、食べ物を扱う店の名がずらりと記されている。
「三日後の技能大会に出る者達には、結果に関わらず労いとして食い物を出す。それは、協力を申し出てきた店の名簿だ。全て回って、必要な費用を聞いて来い」
信長に呼び出され、そう仕事を言いつけられた。この仕事自体が嫌なわけではない。問題は、市に出なければならないということ。
謙信様にまた会ったら、どうしよう。
名簿には、幸村の店の傍にある店も載っている。佐助は幸村の所へ逃げ込めと言っていたけれど、むしろ遭遇する確率は高い。
「桜、どうした」
「あ…秀吉さん」
顔を上げれば、目の前に心配そうな顔をした秀吉が立っていた。桜の手元を覗きこむと、ああ、と声を上げる。
「その名簿、俺が作ったんだ」
「え…そうなの?」
「たくさんあるが、上から順に聞いて行けばいい。遠い店から城に近づいていくように作ったからな」
人好きのする笑顔で笑うと、秀吉は桜の頭をぽんと撫でた。
「ありがとう…それなら、すぐに終わりそうだね」
「無理するなよ?大変だと思ったら俺に言え、いいな」
頷いた桜に、頑張れよ、と手を振った秀吉は足早に廊下を進んでいった。大会の準備で、他の武将達も皆忙しいのだ。
紙を折り、懐に入れ、桜はよし、と気合を入れる。会うかどうかも分からない謙信を怖がっていては、何も出来ない。そのままの勢いで、桜は城を飛び出した。
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、数件目の店を出る。次の店が、最も幸村の店に近い。城を出て来た時の勢いは萎れ、ついきょろきょろと周りを見回してしまう。
「…いない」
ふう、と息を吐いた桜の肩が、ぽんと叩かれた。
「おい」
「わあっ」
「うわ!?」
飛び跳ねた桜が振り向くと、それ以上の驚きに目を丸くした幸村が見下ろしていた。