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【イケメン戦国】紫陽花物語

第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*





「謙信様なら今日はいねーよ」



桜を伴って店へ戻った幸村が、笑いながらそう言った。用を済ませて戻る途中で、挙動不審な桜を見つけて声をかけたのだという。

真田幸村。安土で佐助と共に敵情を視察する目的で潜伏している彼のことは、佐助の紹介で知っている。もちろん、安土の武将達には秘密で。



「そっか…」

「おー」



自分の言葉に分かりやすく安堵した桜を、幸村は面白そうに見る。



「…何?」

「いや…お前みたいな女でも、怖いもんとかあんだなーって」

「どういう意味!?」

「だってお前、戦にまで顔出してただろ?」

「あれは無理矢理連れて行かれたの!」



眉根を寄せる桜に、幸村は苦笑した。



「分かったよ、そんなこえー顔すんな。せっかく笑ってりゃか…」

「か…?」



幸村は、慌てたように口を抑えて、そのまま赤面して黙り込んでしまった。理由が分からない桜が聞き直せば、じろりと睨まれる。



「何でもねー、気にすんな」

「自分が言いかけたくせに」

「そうだぞ、幸」



第三者の声に振り向いた桜を見つめるのは。



「げ…信玄様」



嫌な顔を隠しもせず、幸村がその名を呼んだ。信玄の目は桜へと向けられ、にっこりと余裕のある笑みが浮んでいる。



「やあ、君は戦に来ていた子だね。また会えるなんて、幸運だ」

「あ…はい。桜と言います」

「桜。麗しい君にぴったりの良い名だ」

「あ、ありがとうございます…」



歯の浮くような台詞が次々に出てくる信玄にたじろいでいると、幸村がため息をついた。



「信玄様。そうやって会う女片っ端から口説くの、止めてください」

「それを言うなら、幸はもう少し素直になった方が良いな」

「…何の事ですか」

「だって今この子のこと、可愛いって言おうとしてたんだろう?」

「…え?」



悪戯っぽく笑う信玄の言葉。


幸村が?可愛い?


信じられずに首を傾げながら目をやれば、反論が言葉にならずに口をパクパクと動かす幸村と目が合った。瞬間、幸村の顔が耳元まで朱に染まり、真実であることを悟った桜の頬も、同じくらい赤く変わった。
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