第24章 それゆけ、謙信様!*遭遇編*
安土城、夜。
桜の部屋の天井裏が、カタンと音を立てた。もう馴染みになったその音に、桜は顔を上げる。
「佐助君?」
「…こんばんは、桜さん」
静かに降りて来た佐助は、口を覆う布を外して桜が差し出してくれた座布団へ腰を下ろした。
「今日は、どうしたの?」
「謝りに来たんだ、昼間のことで」
佐助のためのお茶を準備していた桜の手が止まる。
「昼間…?」
「そう。俺の上司が、君に迷惑をかけたから」
「ああ!」
ようやく合点がいった。お茶を佐助に渡しながら、苦笑が漏れる。
「まさか謙信様が安土にいるとは思わなくて、驚いちゃった」
「君にも知らせておくべきだったな…まさか、こんなに早く来るとは俺も思ってなかった。例の、技能大会のことを文で報せたんだ」
そこで言葉を区切り、佐助はいただきますとお茶を啜る。
技能大会。
信長の発案で実施が決定したその大会は、戦に役立ちそうな技術や能力を披露しあうものだ。剣術を模擬戦方式で披露する者、弓術や馬術の成果を見せる者。それらを信長以下、武将達で審査して、最も素晴らしい者には褒美を与えることになっている。
「一応俺は、安土を偵察するのが仕事だから。謙信様達は、安土の実力を推し量るいい機会だって思ったみたいだな」
「ふうん…」
「お茶、ありがとう。ご馳走様」
ことん、と湯呑を置いた佐助が、どういたしまして、と笑う桜をじっと見つめる。
「どうしたの?」
「用がなくても…桜さんが淹れてくれるこのお茶を飲みに来たいと思う俺は、ずうずうしいかな」
「そんなこと、ないよ!こんなお茶で良ければ、いつでも来て」
桜の言葉に、佐助は口元を緩めた。ありがとう、と微笑んで立ち上がる。
「もしまた謙信様が迷惑をかけるようなことがあれば、幸村の所へ逃げ込んで。俺からも言っておく」
「分かった、ありがとう」
名残惜しそうに一度振り返り、また来ると呟いた佐助は、音も無く帰って行った。