第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
がぎん、という異質な音と手応えに、信長は相手の刀が折れたことを知った。同時にその持ち主は地に転がる。
折れて飛んだ刃は、振り向いた信長の頭上を越えて弧を描く。その先には。
「桜、避けろ!!」
いち早く気が付いた信長が走るけれど、到底間に合わない。ようやく自分の方へ刃が飛んでくることにはっとした桜が、頭を抱えてぎゅっと小さくなる。
「…っ」
桜の頭上すれすれを通った刃は、背後の木へどっと突き刺さった。
「桜っ」
「わっ」
恐る恐る頭を上げようとしていた桜の手や、頭を信長が荒っぽく確かめる。珍しく焦ったようなその行動に、桜の方が戸惑ってしまうほど。
「大丈夫です、信長様。当たってません」
「…本当か」
「はい。大丈夫です」
動揺した瞳を鎮めてやりたくて、もう一度大丈夫と繰り返した。ゆっくりと落ち着きを取り戻した瞳が、揺らぐ。
「桜…来い」
信長の手に導かれて、立ち上がった。信長が触れたことで乱れてしまった頭髪が、同じ手で優しく撫でつけられていく。
「ありがとうございます…」
「…いや」
髪が整うと、信長はじっと桜の顔を見つめる。きょとんと見つめ返していた桜は、信長が何も言わない事に居た堪れなくなって、視線を反らした。
「一歩違えば…いつ貴様を失ってもおかしくないのだな」
ぽつり、と声が落ちた。
守ることより、失うことの方が遥かに簡単だ。ことこの乱世においては。それ故に、失った物にいつまでも縋っているようでは、大望を成し遂げることなど不可能。
そんな事は、とうの昔に悟ったというのに。
刃が少しでも逸れて桜に当たっていたなら。そんな想像をしてしまったが最後、自分の身体が内側から崩壊していくような心地になる。
自らの心を塞いで、ひたすらに他人から奪ってきた。数えきれないほどの恨みを背負いながら。