第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
「信長様は、怒ったりしないんですね」
「何に怒ることがある」
美味しそうに金平糖を食べる信長の様子に微笑みながら、桜が思っていた疑問を口にする。橋が落ちているのを見た時も、それがわざと斬られたものであることが分かった時も。信長は口の端を上げて笑うだけで、その顔には何の怒りも落胆も浮かんではいなかった。
「守る物の数を減らすのは当然だ。光秀や三成なら必ずそうする」
「なるほど…」
「それに思いがけず、貴様との時が長くなった。褒美を取らせたいほどだな」
「そ、そうですか…」
前向きだ…。
「信長様、金平糖はもうお食べにならないんですか?」
かさり、と地図を広げた信長に問う。桜には片手では足りないほど寄越したというのに、信長は数粒口にしただけ。
「もうも何も、金平糖はとうに無い」
「えっ!」
信長は、地図から目を離さずに告げた。つまり、ほとんどを桜へ渡してくれたのだ。慌てて手に残る金平糖を、信長へと差し出す。
「信長様もどうぞ、食べてください」
「いらん。貴様が食え」
「でも」
出した手を引っ込められず、そのまま固まる。信長はやっと地図から顔を上げると、桜の困ったような顔に、目を細めて笑った。
「別に我慢などしている訳ではない。俺はもう十分だ、遠慮せず食え」
「…ありがとうございます」
手のひらに乗ったままの金平糖を、ゆっくりと口に入れる。残り少ない金平糖をカラコロと舌の上で転がして、味わう。
「…やはり、寄越せ」
そんな桜をじっと見ていた信長が、金平糖へと手を伸ばした。残りを全てつまんで、舌に乗せるように口に入れてから、そのまま桜を引き寄せる。
「わっ…!?」
突然のことに傾いだ体を、信長の厚い胸板が受け止めた。たくましい腕が、桜の腕の下から脇を通り、腰を持ち上げる。必然的に膝立ちになった桜の頭が、後ろから掴まれた。
「ん… んぅ…」
深く、深く繋がった唇。信長の舌が桜の口内へと金平糖を押し込み、転がす。甘い痛みが広がって、体の奥がじんと痺れた。