第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
「ちょっと、何ですかこれ」
橋の様子を見に来た家康が、少なからず焦りを滲ませた声音で光秀達を見る。まだ応戦している二人だけれど、家康の言葉に耳を貸すくらいの余裕はある。
「俺には橋が落ちてるように見えるんですけど」
「ああ、見間違いじゃない。落としたからな、こいつが」
じとっと睨む秀吉の眼が、少し離れた所で刀を振るう光秀を見る。
「最も効率の良い戦法を取ったまでだ」
「信長様達が帰って来られない、っていう都合の悪いことになってるんですけど」
「秀吉様!」
三人の元へ、三成が駆けてくる。橋が落ちていることに気付いた三成には、さほど驚いた様子はない。
「信長様と桜様は…?」
「まだ向こう岸だ」
「地図を書いてきました、何とかお渡し出来れば良いのですが」
「ああ、それなら」
懐から紙を出した三成に、光秀が笑う。傍に倒れる男が背中に背負ったままの弓と矢を拾い上げると、家康へぽいと放り投げた。
「…っと」
「任せたぞ」
「はあ…三成、それ貸して。筆も」
地図を書いた紙を受け取った家康は、宿の状況を書き加えると細く折りたたんだ。矢に結わえ付けて立ち上がる。
「信長様だ、ちょうどお越しになったな」
大きく手を振る秀吉に、片手を上げて答える信長を認めて。家康が矢をつがえた。
「質わる…」
文句をつけながら、きりきりと弓を引き絞って放つ。弧を描いた矢は、正確に飛んで対岸の木の幹に刺さった。
「さすがですね、家康様」
「お前に褒められても嬉しくない」
手を叩き出しそうな三成にピシャリと言って、弓をぽいと放る。
「こっちはあらかた片付いたな。家康、宿の方は?」
「とっくに政宗さんが、一人でほとんど伸しちゃいましたよ」
家康の返事に頷いて、秀吉は刀を収める。
「よし、じゃあ準備を整えたら信長様達を迎えに行く」
逃げようとしている残党や、転がっている男達の捕縛に動き出す。空は既に陽が落ちて、一番星が瞬いていた。