第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
「待て、家康」
共に走り出そうとした家康を、政宗が止める。眼光鋭いその瞳が、宿の脇の森へ向けられている。
次の瞬間、まだ立ち尽くしたままだった主人達を目指して、飛来する矢。刀で叩き落とした政宗が、射手の方向を睨む。
「ふん、一応下衆なりに策を練っているらしいな」
「殺してから奪う、常套手段ですね」
そうこなくっちゃな、と口端を吊り上げる政宗の横で、家康も刀を構える。秀吉達が駆けていった方を見て、ふうと息をついた。
「…ここが無事でないと休めないから、仕方ないですね」
片手を振って、吉次が主人を伴い宿の中へ入るのを確認してから、再び飛んできた矢を鬱陶しそうに払い、家康は微かに笑った。
「…下手くそ」
その間に木々の中へと駆け込んだ政宗が、次の矢をつがえようとしていた射手に対峙していた。
「つまんねえ真似してないで、俺と遊べよ」
慌てて刀を抜いた射手が、政宗の太刀を何とか受ける。ざざ、と周囲がざわめいて、射手を斬り伏せた政宗を取り囲む影。
「…やっぱりな」
かちゃりと刀を構えなおし、政宗は不遜に笑う。
「さっさと来い。俺一人で十分だ」
一方、宿へ戻った吉次達。広間へ入ると、三成が紙を広げて何か書き綴っている。
「三成様、何をしておいでなのでしょう」
「ああ、宿の。ご無事で何よりです」
口調こそいつも通りだが、三成の顔に笑みはない。少しずらして見せてくれたその紙を覗き込めば、大まかな森の中の地図。
「見た所、人数が多いようでしたので。万が一の時のために、信長様に地図をご用意しています」
さらさらと淀みなく書き込まれていく地図に、吉次は感嘆の声を上げる。町へ下りられる道から、そこから伸びる細い脇道まで正確に記載されているのだ。
「吉次殿、この地図に間違いはないでしょうか」
「ええ、ありません。素晴らしいです」
「ありがとうございます」
初めてにこりと笑みを浮かべて、三成はさっと立ち上がる。紙を折りたたんで懐に入れると、躊躇うことなく外へと出て行った。
「父上、私達も万が一の時のために色々と準備致しましょう」
「ああ、無論だ」
宿の者たちも、慌ただしく動き出す。