第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
二日目、夕刻。
「だからな、三成」
「はい、秀吉様」
きょとんとした顔の三成に、正面に座る秀吉はもう一度口を開いた。
「急須にそんなに茶葉は…ってまだ湯を注ぐんじゃない」
「え?あ…」
「だから言ったろ、溢れて…あちっ!」
広間の隅で、終わりの見えないお茶の淹れ方講座が開かれている一方で。
「政宗さん、それ何ですか」
「さっき台所でいくつか名物を教えてもらったからな。忘れないように書き留めてる」
「へえ…。今度作って下さいよ」
「お前にも書いてやるから、自分でやれ」
「結構です」
政宗の手元を覗きこんでいた家康が、ふいと顔を反らした。同時に、広間の襖ががらりと開いて、光秀が顔を出す。
「面白い事態になっているぞ」
その言葉に、四人が訝し気に光秀を見る。
「金持ちの商人がここを貸し切りにしているという噂が広まっていたらしい。野盗が集まっている」
「何、本当か」
ばっと立ち上がった秀吉に続いて、政宗もニヤリと不敵に笑う。
「馬鹿な奴らだな。桜もいないし、暇つぶしに遊んでやるか」
「その桜ですけど」
立ち上がって広間を足早に出ようとしながら、家康が呟く。
「そろそろ帰ってくる頃なんじゃないですか。まあ、信長様が一緒だから大丈夫だとは思うけど」
「野盗と鉢合わせにならなければいいですが…」
三成の心配そうな言葉に、秀吉と政宗が顔を見合わせて。あっという間に広間から人がいなくなる。
宿の外では、既に心配そうな顔をした吉次が、主人と共に立ち尽くしていた。下の町から宿へと続いてくる細い道から、野盗の集団が上ってくる。
武将達がぞろぞろと外へ出て来たことで、主人達の顔が少しだけ安堵した物へ変わった。
「皆様、申し訳ございません。妙な噂が町に流れていることに、先ほど買い出しに行った時にやっと気が付きまして…」
「お前のせいじゃないだろ?それより、危ないから中に入ってろ」
肩を叩いて笑う秀吉に、吉次は申し訳なさそうに眉を下げた。
「お寛ぎにお招きしたというのに…」
「…来るぞ」
光秀がぽつりと呟く。それに頷いた秀吉が、光秀と共に走り出した。野盗を宿と…桜へ近づけないために。