第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
「私、家康が…」
「うん」
「好き、です」
蚊の鳴くような声だったけれど、それは確かに家康に伝わった。満足そうな、幸せそうな顔が桜に笑いかける。
「はい、良く出来ました。じゃ…ご褒美」
指一本分ほどしかなかった隙間が埋まり、唇が重なる。
待ち焦がれていた刺激に、家康の身体の奥が喜びに痺れた。褒美なのは、むしろ家康にとっての方が大きい。
「っん、ん……」
深く、甘く。触れる。啄む。噛みつく。飽きることなく落とされる口づけの雨。
堪らず、桜が押し返した。しぶしぶ止めた家康は不満げだ。
「…何」
「ちょっと待って…」
「やだ」
「や、やだって…」
胸を押していた桜の手を掴み、自分の手と絡ませて木の幹に縫い付けながら、家康は不敵に笑う。
「ずっと待ってた。こうしてあんたに触れられる時を…だから、もう待てない。あんたは、俺に大人しく甘やかされてればいい…っ」
そしてまた繰り返される、熱い口づけ。桜は息を荒くしながらも、それに必死に答え続ける。家康からの想いが、桜の心に波のように流れ込んできて、瞳が潤む。
「は…っ」
どちらともなく息を吐いて、名残惜しく距離があいた。家康の腕が、優しく桜を抱き込む。
「桜。俺は、昨日伝えたくらいじゃ足りないほど、あんたが好きだ。だから、もう離してやれない。…それでもいい?」
「よろしく、お願いします」
こくん、と頷いた桜の頭に、家康が手を伸ばした。違和感を感じてそこを確かめれば、しゃらりと飾りが手に触れる。
「うん…可愛い」
「髪飾り?」
「さっきの草履は、ただの土産。それは、桜が俺のものになってくれたことの証だから」
桜から目線を外した家康が、ぼそぼそとどこか言い訳するように言う。その頬に赤みが差しているのを見ていると、桜も釣られて赤くなる。
「ありがとう…ずっと、大事にする」
「…うん」