第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
「それで、俺を呼び出して何を言おうとしてたの」
家康が、じっと桜を見つめて唐突に尋ねた。その瞳の強い光に、桜の体はどきりと跳ねる。
「まさかこの猫渡すためだけじゃ、ないよね?」
「それは…」
堪らずに目を反らす桜の顔に影がかかる。隣に座っていたはずの家康が、正面へと回り込んでいて。その顔がすぐ目前に迫っていた。
「桜。俺を見て」
「……っ」
「答え、聞かせてくれるんでしょ」
家康は、桜の心の内を見透かすような微笑を浮かべていて。距離の近さも相まって、桜の心臓がばくばくと音を立てる。
「え…と」
「うん…なに…?」
わ、分かってて言わせようとしてる…!
微かに浮かぶ笑みは、桜に意地悪く写る。顔に熱が集まって、潤む瞳を自覚して家康を睨むけれど、余裕のある表情が見返してくるだけだ。小さく深呼吸して、口を開く。
「私、家康が…す」
「…す?」
固まって、二の句が告げない桜を、家康が可笑しそうに見ている。
「す…」
「…」
「す…っ」
「……」
あーもう…!
照れたように頬を染めた家康が、桜をぎゅっと抱きしめた。少し怒ったような声が、桜の耳元で響く。
「あんたのそれ、ほんとたち悪い…っ」
「え…」
「あんたはただ一生懸命なだけなんだろうけど。…その可愛さ、どうにかしなよ」
腕を緩めた家康が、眉間に皺を寄せて桜を見つめる。その瞳には静かな熱が宿り、桜を内に捕らえて離さない。
「そ、そんなこと言われても…」
「まあ、無理だろうね」
くす、と笑った家康は、桜が体を預ける木の幹へと手をついた。こつんと、額が触れる。
「ごめん、桜。…もう一度、ちゃんと聞かせて。あんたの気持ち」
鼻先が触れ合う程の距離にまで、近づいて。かかる吐息と、今にも重なりそうな唇に思考が麻痺して、もう他の事など考えられない。