第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
「え、な、何…」
「こんなになるまで走って…疲れたでしょ。仕方ないから、俺があんたを抱えててあげる」
回された腕が、やんわりと桜の体を後ろに引いた。それに大人しく甘えることにして、寄り掛かるように体を預ける。
「ありがと…」
「ん」
走り続けて上がっていた呼吸と、家康に触れられているせいで高鳴る鼓動。背中から伝わってくる温もりが、それらを溶かしていく。
「あ…!家康、吉次さんに会った!?」
「うん。無事だから、大丈夫」
「良かった…」
はっと身を起こした桜は、家康の答えにほっとする。思わず握りしめていた手を、家康がそっと開かせ、掌や指をなぞる。
「桜…手も傷だらけ」
「逃げてる間は、夢中だったから…」
「もう、冷やすのはいいか…おいで」
再び桜を横抱きにしようとする家康に、慌てて立ち上がろうとした体を押しとどめられた。
「ちょっと、何してるの」
「自分で歩けるよ」
「だめ。これ以上ひどくなったら、治らないよ」
手ぬぐいで、桜の濡れた足を拭いながら強い口調で言う家康には、反論を聞く気はないようだ。そのまま問答無用で抱き上げられて、傍の木の根元まで運ばれた。
「軽い手当てしか出来ないけど、しないよりマシだから」
「うん」
びりびりと手ぬぐいを細く裂くと、手際よく腫れた足首に巻いていく。端を丁寧に結び、緩みがないかを確認して頷いた家康は、その足を少しだけ持ち上げて、ちゅ、と唇を寄せた。
「い、家康っ!?」
「おまじない。早く治るように」
満足そうに薄く笑って、家康は桜の隣に座る。突然の事にどう反応していいか分からず、桜はただ頬を赤く染めた。