第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
「あんた…相手が俺で、良かったね」
言葉の意味を図りかねた瞳が、家康を見る。無感情にそれを見返して、家康は刀を振るった。男を斬る直前で峰に返して、どっと叩きこむ。
三人ともが大人しく地面に寝転んでいる事を確認して、家康はふっと力を抜いた。
ここまでしなくても、良かったけど。
桜を守ろうとしてくれた吉次の分まで、家康は男達に返した。腸が煮えくりかえっていたけれど、殺しはしない。少なくとも、桜の前では。
後で、あの血の気の多い人達にたっぷり可愛がってもらえばいい。
「桜」
「家康…」
座り込んだままの桜の元へ、家康は小走りに駆けよった。しゃがみ込んで、両手でその頬に触れる。
掌から確かに伝わるその温もりに、知らず知らず強張っていた家康の体の力が抜けていく。桜もまた、同じように深く息を吐いてから、気が抜けたように笑った。
「…ありがとう」
「全く、どれだけ厄介事に巻き込まれたら気が済むの」
家康の口から、いつも通りの物言いがこぼれる。桜はそれに、どこか嬉しそうに、ごめん、と笑った。
「怪我とか、してない?」
「え…っと」
座り込んで隠れていた右足を、おずおずと伸ばす。気が張っていた時には気にならなかったが、今我慢できないほどの猛烈な痛みが襲っている。
足袋を脱いで足首を出した。腫れた足首は、ひどい内出血を起こして色が変わっている。それを見た家康は、絶句。
「え…」
「馬から飛び降りた時に、捻っちゃって…わっ」
家康が桜を唐突に横抱きに抱き上げた。慌ててしがみ付く桜を、川岸まで運ぶ。
お、落とされる…!?
怯える桜の予想に反して、家康はその体をそっと降ろした。
「とにかく水につけて、冷やして」
「あ…そっか」
ちゃぷ、と川へ足をつける。熱を持っていた患部が、流れる冷たい水に触れて気持ちがいい。
「しばらくそうしてなよ」
「うん…ありがと。でも家康、退屈だよね」
「別に。…こうしてるから」
家康は桜の後ろに回り込んで、その体をすっぽりと包み込むように座った。前に腕を回して抱きしめ、指と指を絡ませる。