第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
「はっ、はあっ」
心臓、破裂しそう…っ
森の中へ入り、低木の隙間に隠れて休む。呼吸音ですら聞きとがめられる気がして、出来るだけ我慢する。
どうやって逃げよう。
さっきからそればかりが頭をぐるぐると回る。相手は馬だ。余程上手く立ち回らねば、桜一人では到底逃げられない。
誰か助けに来てくれたり…しないよね。
都合の良い期待を振り払い、移動しようと立ち上がる。
「みーつけたぁ」
ワザとらしい甘ったるい声。ばっとふりかえると、桜を馬で連れ去った男がにやにやと見下ろしていた。
伸びてくる手をすり抜けて、逃げ出す。仕方なく駆けだしたその方向に進めば、また河原へと逆戻りだ。
「きゃあっ」
どんと背中を突き飛ばされ、派手に転んだ。立ち上がれない桜の元へ、三頭の馬がどっと駆けてくる。
にやにやと笑いながら馬を降りた男達は、桜を取り囲んだ。悔しさと、恐怖に顔が歪む。
その時。違う馬の蹄の音が突如として響き渡った。振り向こうとした一人の男の背後から、大きな影がぬっと現れる。
「どけ」
馬に蹴り飛ばされた男は、勢いよく飛んだ。そのまま重い音を響かせて地面へと叩きつけられ、意識を手放している。
馬はゆっくりと、桜の前まで来て停止した。
「え…」
呆然とする桜の前に降り立つ、見知った後ろ姿。
「桜、少し待ってて」
すらりと刀を抜くその手は、怒りに震える。刀を向けられた二人の男は、たじろぐように一歩下がった。
「ふうん…逃げるの?」
わざと挑発するように冷たく笑う。短絡的にも、家康の言葉にこめかみを震わせた男が、こん棒を構えた。
「容赦しないけど…それでもいいなら、おいでよ」
一人目が、叫びながら無茶苦茶にこん棒を振り回して向かってくる。上段からの攻撃を屈んで避けると、わき腹に一太刀。呻いて腹を抑える男の後ろに回り込むと、袈裟懸けに切り伏せた。
残っていた男のそばまで大股で近寄っていくと、足を竦ませながらも攻撃しようと腕を伸ばしてくる。それを左腕で払って、懐に入る。振るう刀を、首筋で止めた。流れ落ちる鮮血を感じて、ひ、と男が声を漏らす。