第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
一旦自室に戻って来た家康は、昨日買い物した荷物を漁っていた。その中から小さな包みを二つほど取り上げると、そのまま部屋を後にする。
あんなに必死になって。
廊下を静かに歩きながら、先ほどの桜の様子につい苦笑する。桜からの話というのが、家康が期待するものと同じである可能性は、限りなく高いだろう。
でもま、あの子の事だから…期待はしないでおくか。
蕎麦屋での発言を思い出してため息。しかしそれでも、心がふわふわと浮き立つのを抑えられない。
まだ少し時間には早いけれど、宿の外へと出た。きょろきょろと辺りを見渡して、邪魔者が影にいないか確かめてみる。意外にも、誰の姿も確認できずにほっとした。
光秀さんあたり絶対隠れてると思った。
ぐっと伸びをして、宿の正面に生い茂る森に目を向けた時。叫び声のようなものが聞こえた気がして動きを止める。
「…?」
じっと耳を澄ますけれど、それ以上もう何も聞こえて来ない。空耳だったかと、肩を竦めた家康の目に、ふらふらとこちらを目指してくる男の姿が映った。木にしがみつくようにしながら、少しずつ、必死にこちらを目指して歩を進めてくる。
刀に触れながらその男を注視していると、その姿がはっきりと見えた。その異様さに思わず駆け寄っていくと、その男―――吉次も、腫れた目を家康に向けた。
「家康様ッ…!」
「ちょっと…どうしたの。ひどい怪我だけど」
肩を貸して宿へと連れて行こうとする家康の手に、吉次は縋りつく。今にも泣きだしそうな、苦渋に満ちたその顔。
「申し訳、ありませんッ!私が、私がふがいないばかりに…!」
「落ち着け」
「桜様、桜様が…ッ!!」
静かに、目を見開いた。考えたくもない嫌な予感に、心臓が嫌な音を立て始める。動転した吉次から、断片的な情報だけを何とか聞き出すと、家康は馬に飛び乗り走り出す。
―――桜…!!