第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
宿から離れた森の中。朝の光が心地よく降り注いでいる。
「実は…お聞きしてしまったのですが」
「はい」
「桜様は、この旅で恋仲の方をお決めになるのですか」
吉次の言葉に、せっかくの平穏を手放した心臓がまた暴れ出す。汗が出てくるのを自覚しながら、頷く。
「はい…実は、もう決めました」
「そう、ですか。きっと、その方はお幸せですね」
吉次が、にっこりと桜に笑いかけてくれる。どこか寂しそうにも見えるその笑顔にお礼を言おうと口を開いた時、馬の駆ける音が響いた。
「おい、見ろ!こんな場所に女がいるぜ!」
「…っ」
汚い言葉と共に、三頭の馬が近寄って来て、二人の周りをぐるぐると回る。足を止めて、体を強張らせる桜の前に、吉次が庇うように出た。
「おい、身ぐるみ全部置いていけ。女はこっちに来い」
三人の内二人が馬から降りて近づいてくる。こんな明るい朝に不釣り合いな追いはぎは、こん棒のような物を持っている。
「吉次さん…」
「大丈夫です、私がお守りします…!」
近づいて来た二人を桜へは近づけまいと、吉次が手を広げて立ちはだかる。男たちは不快そうに眉をひそめると、容赦なく武器を振り上げた。
「やめて…っ」
「ぐ…っ」
力いっぱい殴られた吉次は、ふらついて膝をつく。それでも桜を守ろうと立ち上がるものだから、さらに肩や背中、顔を殴られる。
居ても立ってもいられずに、桜は吉次に駆け寄った。なおも立ち上がろうとするその体を押さえつけて、覆いかぶさる。
「桜様、いけません!お逃げ下さい」
「嫌ですっ、このままじゃ吉次さんが死んでしまいます…っ」
桜は吉次を庇いながら、二人の男を見る。怖くて体が震えるけれど、それ以上にこの人を守らなくてはという思いが上回る。
「やめて下さい、お願いですから」
必死に懇願する桜の背後に、馬の蹄の音が響いた。振り向こうとした桜の体が、乱暴に持ち上げられる。
「じゃあ、お前が俺達と一緒に来い」
「なっ…」
「やめろ!」
叫ぶ吉次が、再度殴られてぐったりと体を横たえるのが、離れて行く馬上から桜が見た光景だった。