第22章 温泉旅行へ*家康エンド*
目を覚まし、頭をさすりながら起き上がる政宗に一言叫ぶと、桜は家康に駆け寄った。腕を掴み、袖を引いて引き止める。
「待って、家康」
「わっ…何」
驚いて見下ろしてくる瞳に、桜は意を決して口を開いた。
「後で話したい事があるの。半刻後に、玄関で待ってるから」
桜の言葉に、騒がしかったはずの広間はしんと水を打ったように静かになった。男達の口があんぐりと開いて、それぞれがそのままの姿勢で固まっている。
「うん…分かった」
不機嫌そうだった瞳が、優しく揺らいで。微かに微笑んだ家康の返事を聞くが早いか、桜は逃げるように去っていってしまう。
その背中を見送って、家康ものんびりと広間を後にしてから、広間に時が戻って来た。
「ほう…そう来たか」
「もう一杯飲みたくなってきたな」
顎に手をやる光秀と、頭を抱える政宗。三成は、首を傾げて秀吉を見る。
「秀吉様、今のはいったい…」
「…三成。茶なら俺が付き合ってやる」
信長は先ほどの桜の必死さを思い出して、一人笑う。
ああ、死ぬかと思った…!
大きな仕事を果たし終えて、桜は宿を飛び出し外の空気を吸っていた。まだばくばく言っている心臓を落ち着かせながら、懐に入れた品物に触れる。
「緊張する…」
呟いてそわそわと辺りを見回していると、吉次が歩いていくのが見えた。好奇心から、追いかけてみる。
「吉次さん!」
「おや、桜様」
追いついて声をかければ、愛想よく返事をしてくれる。どこに行くのか尋ねると、台所用の薪を取りに行くという。
「私にもお手伝いさせてください」
「とんでもない。桜様にそのような事をお願いするわけには」
恐縮する吉次に、桜は半ば無理矢理ついていく。準備する時間が欲しいと思って半刻と言ったけれど、そわそわと落ち着かない。少しでも時間をつぶしたい。
「じゃあ、ついていくだけでも。お願いします」
「そこまで言われるのでしたら…」
とうとう折れた吉次について、薪小屋まで二人で向かうことにした。