第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
三成が怒っている所など、これまで桜は見たことがなかった。それが今、顔をしかめ声を荒げて、自分を見ている。
男に刀を向けられた時は、無我夢中だった。自分が盾になって皆が傷つくくらいなら、ここで一人抗ってしまおうと、そればかり考えていたけれど。
桜が三成たちを思う気持ちと同じものを、三成も桜に抱いている。そんな簡単な事に、今更気付いた。
申し訳なさで一杯になって、小さくなるしかない桜の肩に、とん、と三成の頭が乗った。
「あなたがいない事に気付いた時…気が、触れるかと思いました」
かろうじて聞き取れる程度の小さな囁きが、三成の口から漏れ出して消える。
「あなたが、斬られそうになっているのを見た時には…息が、止まるかと…っ」
声を詰まらせ、三成は桜の腰を抱く手に力をこめた。桜はおずおずと、その背中に手を回す。
「三成君…ごめんなさい。心配かけて…」
「いいえ、許しません」
がば、と頭を上げて、三成は桜をひたと見つめる。その真剣で一途な視線をまっすぐ見返していると、三成の瞳に熱がともる。ぎゅっと手を握られた。
「約束します。必ず…私が、桜様をお守りします。ですから、桜様も約束してください。決して、無茶なことはもうしないと」
「…うん。約束する」
「絶対、ですよ」
「うん、絶対」
桜が力強く何度も頷いて見せて、三成はようやくにっこりといつもの笑顔になった。それに安心すると、桜は急に三成の膝の上に座っていることが恥ずかしくなってくる。
「ご、ごめん。降りるね…!」
「ダメです、お待ち下さい」
「きゃっ」
立ち上がろうとした桜は、三成に腕を引かれた。勢いがついて、先ほどよりも三成の膝の上に深く腰を下ろす格好になる。
恥ずかしさに半ばパニックになりながら、三成の上から退こうとするけれど、腰と背中に回された腕が、桜を離してくれない。
優しく頭を抑えられ、大人しくなるしかない。どちらのものか分からない心音が、どくんどくんと響いている。