第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
女中達から聞きこんだ情報で、書庫へ向かった三成が見つけた古い地図。そこに載っていた、宿から離れた森の奥。
新しい地図には載っていない、建物を示すその印を見た時、三成は直感的に思った。
この小屋がまだ存在するとしたら、悪だくみにはうってつけだ、と。
その勘が確信に変わったのは、桜を探して一人小屋へ向かって歩いていた時。人相ばかり悪い、小汚い恰好をした男が数人、三成の元へ向かってくる。
それらを容易に叩き伏せて、なおも小屋へ向かうと、二人組の男が入っていく所に出くわした。隠れてそれを確認して、板の隙間から中を覗く。
…やっと、見つけた。
縛られて硬い表情はしているものの、無事な桜の姿にひとまず安心する。それも束の間、桜が抵抗する様子を見せた。
首に刀が突き付けられている様子が見えて、今まで感じたことのない感情に突き動かされる。桜を助けに入ってから、心の冷静な部分でその眼を塞いだ。
今の自分の顔も、これからしようとしていることも、見せたくない。
「三成君?」
声を聞いただけで、自分を分かってくれたことが嬉しい。桜が目を塞いでいることを確認してから、三成は桜の前に立った。
同時に三成に襲い掛かってくる二人の男の刀を難無く受け、浅く斬りつけて床に転がす。話を聞く必要があるから、殺しはしないけれど。
自分の心が、戦の時以上にしんと冷えていることを感じる。冷たい瞳で二人の男を見下ろした後で、呟いた。
「安土の…いえ。私の大切な方を傷つける者は、決して許さない」
小屋を出て、桜を衝動的に抱きしめてしまってから、急に力が抜けていく。桜が無事なことに安堵したら、張り詰めていた気持ちが緩んだ。その後に湧いて来たのは、静かな怒り。
桜は、安土の武将達をとても大切に思ってくれている。それはとても尊い。今までなら、それに敬意を払う所だけれど。桜が命知らずな行動を取ったことが、少なからず不愉快で、腹が立つ。
書庫で想いを告げてから、三成はわがままな感情を自覚しだした。
頼って欲しい。自分だけを。
呼んでほしい。自分の名を。
そうすれば、桜の傍に居られるのだから。