第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
唐突に背後の戸が開いて、桜の首元に向けられていた刃が、別のそれで弾かれた。同時に桜の視界が、黒く染まる。
視界を覆うものが、誰かの手であることに気付いた桜は、とっさに抵抗しようとした。けれど、耳元で小さく聞こえた優しい声に、力を抜く。
「桜様。遅くなって…申し訳ありません」
「三成君?」
返事の代わりに、両目を覆う手に力がこもる。縛られていた縄が切られ、体がふっと自由になった。
「お前は石田三成だな!どうしてここが…」
刀が触れ合う音が間近で聞こえて、目の見えない桜は身を竦ませる。男の言葉を無視した三成の声が、聞こえる。
「少しだけ、目を瞑っていて下さい。すぐに終わります」
「…うん」
頷いて、桜は自分の手を目元へと持っていく。三成の手が、そっと離れた。
ざ、と床を踏みしめる音がして、傍に誰かが立つ気配。三成がいると思うだけで、まだ状況は何も変わっていないはずなのに。真っ暗な視界の中、桜はもう何も怖くない。
「外の連中はどうした!まさか…」
「あまりにも呆気なく倒れていくので拍子抜けしました。…もう少し、戦い方を学ばれた方が良いかと」
「黙れッ!!」
刀のぶつかり合う音。足音。うめき声。重いものが落ちる音。限りなく短い間に、様々な音が耳に聞こえてきて、あっという間に静かになった。
三成の囁くような声も聞こえたけれど、内容までは桜に届かない。
「桜様、お待たせいたしました」
「終わったの…?」
「はい」
恐る恐る手を離すと、座り込んだままの桜の前に、いつもの笑みを浮かべた三成がしゃがんでいる。
「うーん」
場違いな声に、三成が首を傾げて視線を送る。吉次が目を覚ましたようだ。
さっと立ち上がった三成は、恭しく桜の手を取ると、立たせた。桜を小屋の外へと促して、自分だけで吉次の元へ向かう。
「吉次殿」
「あ…?」
まだ状況が把握できていない吉次の傍まで歩み寄ると、抜き放った刀をドッと床へと突き立てた。
「ご自分が何をしたか、お分かりですか?」
ニコリと笑う三成の迫力に、吉次はもう一度気を失った。