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【イケメン戦国】紫陽花物語

第21章 温泉旅行へ*三成エンド*




どれくらいの時間が経ったのだろう。小屋の隅に小さくなったまま、桜は耐えていた。

宿へ戻ろうとした吉次は、外から入って来た男に殴り倒されて昏倒している。二人の男は、桜達を残して小屋を出て行き、まだ戻らない。


今なら、逃げられるかもしれない。


そう思うけれど、自信は正直ない。暗い中担がれていたせいで宿へ戻る道は判然としないし、吉次をこのまま残していくというのも、少しだけ罪悪感がある。

もしかしたら、男達は外にいるだけかもしれない。桜が逃げ出すのを待ち伏せて、殺す時を待っているだけかもしれない。

どう行動するのが最善か決めかねて、動けないまま時間だけが過ぎていく。いつの間にか陽も昇りだし、外からの光が眩しい。


土を踏みしめる足音が響いて、桜はびくりとする。入口をじっと睨みつけていると、男二人が小屋へと戻って来た。



「逃げなかったな」



首謀者らしき方の男が、嫌らしく笑って桜を縛っている縄を掴んだ。引っ張られて、否応なしに立たされる。



「お前を織田どもが探してやがる」

「……ッ」

「お前を先に殺そうと思ったが、やめた。盾に使う」



いない事に気付いて貰えた嬉しさが、男の言葉で霧散する。桜が盾になどされたら、いくら百戦錬磨の武将達でも思うようには動けない。

引きずられるように小屋の入口まで来たところで、桜は足を踏ん張ってその場に立ち止まった。



「早く来い!」

「嫌…です。盾になんか、なりません」



自分のせいで、強くて優しい彼らが苦しむ姿は見たくない。目の前で傷つき血を流す姿など、なおさら。

力任せに縄を引かれ、勢いよく体が飛んだ。戸に叩きつけられて、そのまま座り込んでしまう。



「今すぐ殺してもいいんだぞ!」



イライラした様子で、男が声を張り上げる。腰の刀を片手で抜き、切っ先を桜へと向けた。首にちくりと痛みが走る。



「生首にでもなりてえか」



ギラギラした瞳に射抜かれながら、それでも桜は見上げる視線を反らさない。生ぬるい感触が首を流れて、一筋の赤が寝間着を汚す。


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