第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
時は戻って。
「報告しろ」
広間の上座に座った信長の言葉に、秀吉が口を開く。
「桜の部屋をあらためました。布団は乱れたまま、替えの着物はそのまま。庭の草木が踏み荒らされておりました」
「夜の間に賊が侵入したってことか」
呟く政宗の横で、光秀も頷く。
「部屋が端だとはいえ、俺達が一人も気付かないほど静かに事を終えている。手引きした者がいるな」
「連れ去られた場所の検討はついているんですか」
家康の呟きに、自信をもって答える者はいない。心当たりがある、といった三成が一人でどこかへ出てしまってから、手分けして宿の周りを捜索した。
しかし、何もない。宿の女中たちへ聞いても、そういう事に使えそうな小屋などないと言う。
馬を飛ばして探し回ろうとする秀吉達を、信長がひとまず広間へと集めたはいいものの、特に有益な情報もなく。
恐らく既に、桜が賊の手に落ちてから一刻半は経っている。曇天とはいえ、陽が昇ってしまった今、桜を一刻も早く保護しなければと、皆気ばかり急いてしまっている。
「信長様、やはりもう一度探させてください」
「ああ、こんな所でぼうっとしてるよりは余程いい」
秀吉と政宗が、信長の返事も聞かずに突っ走っていきそうなのを見て、家康がふうと息を吐いた。
「三成はどこに行ったんでしょう」
「心当たりがあると言っていたんだろう。一人ででも、桜を探しているのだろうな」
あいつにしては珍しい行動だ、と笑う光秀の言葉に、家康は確かにそうだと思う。
普段の生活こそ危うさしかなくて、天然が天然を呼ぶ男だが。ひとたび戦となった時のその頭脳と戦術に長けた手腕に関しては、認めざるを得ない。
冷静に戦況を分析して、無謀なことなど決してしない三成が、秀吉達にろくに説明もせずに一人で行動している。
それだけあいつも、取り乱しているのか。
今すぐ桜を探しに駆け出して行きたいのは、冷静を装う自分も同じ。しかし、本当に心当たりがあるのなら、一言残して行けばいいものを。
信長の命を受けて、家康達は再び捜索を再開したのだった。