第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
だが、皆のいる広間に顔を出して事情を話さねばなるまい。今は桜をそっとしておいてやりたい。それに本音を言ってしまえば、桜からもう離れたくない。
それがただのわがままだと、分かってはいるけれど。
手当てが終わり、布の余りなどを片付けていると、桜がしきりに首筋に触れることに気づいた。
「首、どうした?」
何気なく尋ねると、桜の顔色がさっと変わった。
「…別に何でも…」
「見せろ」
誤魔化そうとする桜の手を無理に退かすと、赤い傷痕。
「抵抗…したら、思いきり噛まれちゃった」
「……っ」
生々しいそれに、むかむかした気持ちがわく。桜の白い綺麗な肌にポツリとある赤が主張する、他の男の存在。
秀吉は、桜の腰を抱き寄せた。首に唇を寄せて、傷痕をまるごと飲み込んでしまうように吸い付く。
「あ…ッ」
ちゅ、と音を立てて離した肌に、新しい痕が付いたのを確認して。秀吉は桜を燃える瞳で見つめる。
「あんな思いをした後で、触れられるの嫌だろうと思って我慢してたが…もう、無理みたいだ」
「え…」
「だから嫌だったら、今言え」
あの男の触れた感触。残した痕。全てを消し去ってやりたい。
いや、自分のために、消し去ってしまいたいのだ。男に乗られている桜の姿が頭に何度もちらついて、その度に噴き出す怒りと戦っていたけれど。
「お前が嫌がるなら、もうやめる」
「…触れて、下さい」
腫れた頬よりも顔を赤く染めて、掠れた声がそう告げた。秀吉の手に、そっと重なる小さな手。
「秀吉さんの手に…触れて、欲しい」
「…桜」
すっと体を近づけて、顔を寄せる。桜が静かに目を閉じるから、その目元に口づける。労わるように、腫れた頬にも。
間違っても嫌な記憶など蘇ったりしないよう、優しく抱き寄せながら、唇を重ねる。静かに離れた後で見つめ合えば、切ない程の愛しさが秀吉の心を満たしていく。
ぎゅっと、抱きしめた。その存在がもうどこへも行かないように。
「桜…」
もう、あんな思いはさせない。降りかかる危険など、俺が全て振り払って、命をかけて守ってやる。