第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
がくがくと震える桜をそのままに出来ない。とにかく安心させてやりたくて、引き寄せる。抱きしめたい衝動を抑えて、背中に手をあててぽんぽんと宥めてやる。しばらくそうしていると、少しずつ落ち着いてきたようだ。
「もう忘れろ…桜」
「うん…」
流れる涙はそのままに、桜は自分の身体をこするように触る。男の触れた感触が残っているのだろう。
想像して、再び頭に血が昇るのを、秀吉は必死に抑える。
「体…拭きたい」
ぽつり、と桜が呟く。本当は先に頬を冷やしてやりたい所だが、桜の気持ちを優先することにする。
「風呂じゃなくていいのか?」
「ん…怖い、から」
誰が来るか分からない大きな浴場に一人。その気持ちを察して、秀吉は立ち上がる。
「湯を持って来てやる」
「ありがとう…」
心細そうな顔をした桜に、すぐ戻るからと笑いかけて、秀吉は先に桜の部屋へ向かった。いまだ転がっている吉次に、布団を巻き付け縛り上げる。
後でこのまま、広間へ放り込んでやる。
部屋から寝間着なんかも手に取って、桜の元へと急いだ。
「俺は外で待っているから、終わったら呼ぶんだぞ」
「あ…待って」
必要なものを全て渡して、また部屋を出ようとした秀吉の裾を、桜が掴んだ。怯えた瞳が、懇願するように秀吉を見る。
「ここにいて」
「…いや、それは」
「お願い、します」
結局。桜にどこまでも甘い秀吉は、庭を眺める形で背を向けて、桜のそばにいる。
体を拭いて、寝間着に着替えて。秀吉にありがとうと笑いかけるその顔は、少しだけ明るさを取り戻していた。
「手当てしてやるから、顔見せろ」
「…はい」
手拭いを水で絞って、赤く腫れた頬に当てる。無意識に皺が寄る眉間。女の顔を叩くなどという行為は、許されることではない。
手首の傷も見る。抵抗したに違いない。ひどく擦れたそこには血が滲んで、触れるのも躊躇われる。
「後で、家康に薬を頼んでやるから」
「ありがとう」
本当は、すぐにでも頼みに行けばいいのだ。きっとすぐに使える物を幾つか用意しているはず。