第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
まず感じたのは、自分への怒りだ。
何故もっと気にしてやらなかった。何故もっと早く様子を見に来なかった。…何故。
寝ているはずの桜が妙に心配になって見に来てみれば、何か気配がする。暗くて様子は分からなかったけれど、どこか不穏で。
「嫌」
桜の拒絶の言葉が聞こえた瞬間に、後先考えずに押し入った。覆いかぶさっている男の姿と、上も下も着物をはだけさせた桜の姿が視界に入った途端、死んでも構わないと思う程の力で、その男を蹴り飛ばしていた。
それだけでは到底治まらない怒り。灯りもない暗い部屋の中が、真っ赤に染まって映るほど。体内の血液が倍の速度で駆け巡る。どくんどくんと波打って、狂気にも似た殺意が湧いてくる。
「秀吉さん」
腕の中からの、小さな声。それは秀吉の耳にやけに響いてはっとする。我を忘れて、刀を抜いていた。
見上げてくる桜の手が縛られていることに気付いて、切る物を変える事で何とか気を鎮める。
「ありがとう…」
手首をさする桜の手が震えている。抱きしめていた桜の着物をさっと整えてやると、身体を抱えて立ちあがった。
「俺の部屋に行くぞ」
「…うん」
伸びている吉次を一瞥した後、部屋を出た。
灯りのついた部屋へ入ると、秀吉は桜の身体を見てぐっと顔をしかめた。縛られていた手首は赤く擦れて痛々しいし、顔は頬が腫れている。
また抱きしめてやろうとして、躊躇う。あんな思いをしたあとで、男に触れられることを望むだろうか。
「ごめんな…早く気付いてやれなくて」
「ううん…ありがとう。…秀吉さんなら、来てくれるんじゃないかって…思ってた」
痛々しく笑うその顔を見ていられない。涙の痕の残る目元にだけ、そっと触れてやると、桜の顔がくしゃりと歪んだ。タガが外れたように、後から後から涙があふれてきて、桜は自分の体をぎゅっと抱きしめる。
「こわかった…っ」
「…桜…」
「触られて、なめられてっ…きもち、わるくてッ…」
「桜、もういいっ」