第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
流す涙を舐められている感覚に、必死で気づかないふりをして。頭の中の秀吉にだけ思いを馳せる。
貴方の想いに、すぐに答えていればよかった。あの涙の瞬間から、答えは決まっていたのに。
あの時。秀吉の大きな温かな手に触れられて、熱のこもった瞳が桜を捉えて。口づけられた瞬間に、秀吉からの想いと、桜の無自覚な想いが重なりあった。
私…嬉しかったんだ。
嬉しくて嬉しくて。その喜びに心は震え、涙となって溢れ出た。あの涙の理由に、すぐに気付けていたら。
もう、遅いよね。
このまま、この良くも知らない男に手込めにされて、どんな顔をして秀吉に会えばいいのか。
首筋を這っていた唇は、ゆっくりと胸元へおりて行く。足を撫でる手は止まらない。
ごめんなさい…秀吉さん。
これから起こる事を、何も見ないで済むように目を閉じる。目じりに溜まっていた涙が一筋、つ、と落ちた。
「嫌…」
耐え切れずにぽつりと呟いた瞬間に、轟音。驚いて見開いた目の前で、吉次が声を上げて飛んでいく。
体に乗る重みがふっと消えて、荒々しく抱き起された。
「桜っ!!!」
待ち焦がれていた声。その姿。
夢じゃない。
「秀吉…さん…っ」
怒りに瞳が苛烈にきらめき、鬼のような形相になったその顔は怖いけれど。
目が合った瞬間、強い力で抱きしめられた。腕の中は息もできないほど苦しい。縛られたままの手首が引っ張られて痛い。それでも、その手を緩めて欲しくない。
再び静かに流れ落ちる涙は、温かく着物を濡らしていく。