第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
こんなにも不快なのか。好きでもない男から触れられていると、体を何か別の生き物が這っているような、気味の悪い感触がする。
桜は、これ以上触れられたくない一心で、抵抗を試みる。縛られた手を夢中で動かすと、文机がガタンと音を立てた。
今の音で、誰か気づいてくれれば。そう思った矢先、顔に弾けるような衝撃。やがてじんじんと痛み出す頬に、ようやく吉次に叩かれたことを知る。歯が当たって切れたのか、口の中に血の味が広がる。
「ううッ…」
「いけない子ですね…」
叩かれた拍子に、桜の口は解放されたけれど、次は吉次に顎を掴まれる。
ぐっと引き寄せられて、距離の近さに身を強張らせる桜。吉次は笑いかけると、自分が張った頬を舌でベロリと舐めあげた。
「ひッ…!」
「もう暴れないで下さい…桜様の可愛いお顔を、これ以上傷つけたくない…」
「い、嫌…もう、やめて…っ」
「ふふ…言っておきますけど、誰も来ませんよ」
懇願する桜の顔を愛でるように撫でて、吉次は笑う。
「え…」
「今はまだ宴が広間で続いております。この部屋で多少物音がしたところで、気づくことはない」
「…そ、んな…っ」
「桜様…初めは皆怖いものです…私に全てを委ねて」
これから起こる恐怖を想像して、桜は叫ぼうとした。その唇が、吉次のそれによって唐突に塞がれる。
「…んーっ!!」
触れる唇の気持ち悪さに、目から涙がポロポロと伝い落ちていく。這い回っていた舌が、掴まれた手に無理矢理開かれた口の中へ侵入してきた。
ガリッ。
反射的にその舌を思いきり噛んだ。吉次は慌てて離れ、口を押さえる。
冷たい目が、桜を睨みつけて。ばちん、とさっきより強く頬が鳴った。
「っあ…!」
「あまり、私に逆らわないほうが良いかと…」
にんまりと笑った吉次は、舌なめずりをして桜を見る。二度も頬を張られたことで、頭に響いてくらくらする。