第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15
深く深く落ちていたはずの意識が、唐突に浮上した。部屋の中は暗闇に溶け、時間もよく分からない。
目は覚めたものの、桜の頭は相変わらずずんと重い。体の自由さえ、あまり利かない。
ぼうっと寝転んだまま、はっきりとしない視界で宙を見る。刹那、桜は目を見開いた。
暗闇に、二つの瞳。
「―――ッ!!」
声をあげるどころか、息も出来ないほどに驚いた。
どどど、と急に走り出す鼓動。体が動かないと思ったのは、人が布団を押さえつけて覆い被さっていたからだと言うことに気づく。
いや、それだけではなかった。手首が紐のようなもので縛られている。紐は、部屋の隅に置いてあったはずの文机が枕元にあり、その脚に繋がれている。
何が起きているのかを自覚して、急に頭が覚醒する。大声で助けを求めようと口を開けると、大きな手に口を塞がれた。
「むぐ…っ!」
「少し、静かにしていて下さいね」
興奮しているのか、丁寧な言葉は少しうわずっていて。その聞き覚えのある声が、吉次の姿と重なる。
「ああ…申し訳ありません。眠っておられる間にすませるつもりだったのですが…」
吉次の言葉はまるで独り言のようで、抑揚のない呟きは不気味だ。
「お酒など召し上がるから、薬の効果が予定と違ってしまった…」
ブツブツと、もはや桜など見えていないかのように、独り考えを呟くその姿に、心底恐怖する。
どうにか、逃げるのは無理でも、誰かに助けを求められないだろうか。音さえ立てられれば、隣室の三成が気づいてくれるかもしれない。
「桜様…」
吉次の声が急に近くなって、考えが中断された。口づけが、瞼に触れる。
「……ッ」
ぞわり。肌が粟立つほどの嫌悪感が桜を襲って、吉次から顔を背けようとする。けれど、口を塞ぐ手がそれを許してはくれない。
「桜様、大丈夫ですよ。優しく、しますからね…」
吉次は、桜の耳にわざとらしく唇を触れさせながら、囁く。響く声も、荒い吐息も、唇も。とにかく全てに桜は悪寒を感じて、堪えきれずに目に涙が滲み始める。
やだ…気持ち、悪い…ッ!