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【イケメン戦国】紫陽花物語

第20章 温泉旅行へ*秀吉エンド*R15



ゆらゆらと、体が揺れる。重い瞼をこじ開けると、秀吉の顔。掠れた声で名前を呼べば、優しい瞳が見下ろしてくる。



「桜、寝てていいぞ。部屋に運んでおいてやるから」

「うん…ありがと…」



普段なら、横抱きなど恥ずかしくて降ろしてもらうのだけれど。今の桜はとにかく頭がぼんやりと霞がかかったように重くて、何も考えられない。

目を閉じ、ただ秀吉の腕を心地よく感じていると、ガラリと襖を開ける音。



「着いたぞ」

「ありがと…」



宿の人が既に用意してくれていた褥に寝かせてもらうと、秀吉が桜の頬に触れる。



「体調は悪くないか?水は?」

「大丈夫…眠い、だけ…」



問いかけにも、やっとの事で返事をする桜に苦笑して。秀吉はぽんぽんと頭を撫でて、立ち上がる。



「おやすみ、桜」

「おやすみなさい…」



秀吉が出ていく気配がして、桜の意識は微睡みの中に溶けていく。なぜこんなに眠たいのか。その疑問を考えることすら、どうでもよくて、桜はそのまま意識を手放した。



秀吉は、桜の部屋を出て広間へと戻る。

昨日は、本当にどうしようかと途方にくれた。だが返事を待っていて欲しいと言った桜の目はしっかりと自分を見てくれて。こうして今も、嫌がることなく接してくれる。

変わらない笑顔で、言葉を交わすその姿が嬉しい反面、心配もあった。

素直な桜のこと、心が決まればすぐに分かるだろう。しかし、全員に対して特に変わった様子はない。つまり、まだ悩んでいるのだ。


無理に答えを出す必要はない。


秀吉は桜にそう伝えたかった。とかく愛などと言うものは、意志でどうこうできる代物でもない。

秀吉にとってもそれは同じ。信長のためだけに生きてきて、その思いは今も変わることはないが。桜と出会ってから、全てが変わった。


あいつの笑顔が、今の俺を作っている。


誰かを選ばなければならない。
その強迫観念が桜の心を締め付けて、笑顔が消えるのなら。

無理に誰かを選ぶことで、桜が心に嘘をついて、その笑顔が陰るなら。


俺は選ばれなくていい。


秀吉はぐっと拳を握りしめ、やはり明日伝えようと決めた。
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