第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
痛いほど分かっていた、自分の想いなどとっくに。
だが自分といた所で、純真なこの娘が幸せを感じることは決してない。
だから、今の関係でいいと思った。
愛しているから。
だから、今回の旅にも、本気で参加したわけではない。ただ、気が向いただけ。
だが、思いがけず桜への想いがこの旅で溢れ出し、抑えがきかないほどに膨れ上がってしまった。
愛する娘をただ遠くから見守って、幸せを掴むその姿を見届けて。棘の道を進むつもりだった自分の決意が、あっけなく崩れ落ちていく。
抱きしめて、口づけて。
そうしてなお、弄ばれたと嫌って離れて行けばいいとさえ思っていたのに。
「光秀さんに触れられる度にドキドキしてる私を見て、遊んでいるのなら」
そんな事を言うものだから。
違う、と心の素直な部分が叫ぶ。
嫌われるつもりなら、そのまま言わせておけばよかったのだ。そうだと頷いて、心を突き放せば良かったのだ。
だが、出来なかった。
「本当に困った娘だ…お前は」
普段から矛盾した状況に置かれてなお、冷静に事を運ぶことを得意としていたはずなのに。この娘の前では、何もかも上手くいかない。
もう、観念してしまうか。
「これが俺の気持ちだ」
もう一度、隙間もないほどに抱きしめて、耳元で囁く。抱きしめた身体は温かくて、少し力を加えたら砕け散ってしまいそうなほどに華奢だ。
しばらく抱きしめ続けていると、桜の触れ合う頬が熱い。それに気づいていないふりをして、光秀は黙ったままの桜と、鼻が触れるほどに顔を近づけた。
「分からないか…?」
「……ッ」
息を呑む桜。紅く柔らかなその唇を見ながら、静かに唇を寄せる。
「ん…っ」
微かな水音を立てて離れると、改めて愛しさが深くなる。吉次に触れさせなくて、良かった。