第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
「分かったか?」
「…えっと…」
腕の中に閉じ込めたまま尋ねれば、どこか歯切れが悪い。分からないならもう一度してやろうとまた顔を寄せれば、慌てたように首を振る。
「ち、違うんです、あの」
「なんだ」
「言葉で…言って欲しいんです」
照れて目を伏せる桜の姿に苦笑してしまう。なんて…他愛もない。
「好きだ、桜。…愛している」
「はい…私も、光秀さんの事が、好きです」
これ以上ないほどの素直な言葉を吐いた甲斐があった。桜の笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも美しい。
ちっぽけな黒い闇など、焼き尽くしてかき消してしまうほどの、白。
「俺といるのがいいなんて、お前は余程いじめられるのが好きなんだな」
柄にもなく照れて、ごまかすためにそう呟いて、桜の頬を優しくつねる。
「もーそれやめて下さい!光秀さんはすぐ意地悪する…」
「それでも、俺がいいんだろう?」
にやり、と笑って見せれば、拗ねたような顔をした桜がそっぽを向く。
「そうですよっ」
「……」
行動が、言葉が。いちいち可愛くて、可愛すぎて。顔に熱が集まるのを自覚して、黙る。
俺としたことが、先が思いやられるな…。
「戻るぞ」
「はい」
気付けば小屋の傍から動いていない。桜の手を取り小屋から離れる。吉次など、朝まで放っておいてもいいぐらいだ。
「おい、大丈夫か!?」
宿の方から政宗が走ってくる。異変に気付いて探していたのだろう、息を切らしている。
「遅かったな、政宗。悪いが、もう済んだ」
「…そうか」
「その小屋に転がっている。気が向くなら、頼む」
「ああ、分かった」
「それともう一つ」
「わ…っ」
繋いだ手を、ぐい、と政宗へ向けて。驚く桜を見てニヤリと笑った。
「悪いが、俺がもらった」
「…はああ!?」
待て、光秀!と騒いでいる政宗を放って、言うだけ言って満足した光秀は、桜の手を引いていく。
残された政宗は、頭をがりがりとかいて呟いた。
「あいつ、本気だったのか…」
会話などないけれど。宿へと向かう二人は微笑みあって、繋いだ手はいつまでも、温かい。
光秀エンド 終