第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
「…さて、戻るとするか」
何もなかったように、光秀は歩き出す。桜はとっさにその背中を追いかけて、腕をつかんでいた。
これには光秀も、驚いたように足を止めて桜を見る。
「光秀さんの気持ちを…教えてください」
からかっていたと思ったら、触れて。意地悪だと思ったら、真剣な顔で抱き締めて。
あまりべらべらと考えを言葉にする人ではないから、桜は光秀が何を考えているのか分からない。それがもどかしくて、もどかしくて、堪らない。
抱擁や口づけが単なる気紛れなら、その度に桜はいたずらに胸を高鳴らせていることになる。
腕を振りほどくこともなく、そのままの姿勢でただ桜を見つめている光秀を見上げ、意を決して口を開く。
「光秀さんは…ずるいです。いつも私の事をからかって、いじめて楽しんでいるのに、こういう時には一番に助けに来てくれるのは、何故ですか?」
掴んでいた手を離して、拳をぎゅっと握る。桜の心の奥からの叫びが漏れ出して、もう止まらない。
「く、口づけしたり、抱きしめたりして…何も言ってくれないのは、何故ですか?光秀さんに触れられる度にドキドキしてる私を見て、遊んでいるのならっ…」
それ以上言葉が続かなかった。桜は、強い力で光秀に抱きすくめられていた。
「…っ」
ぎゅっと抱きしめた腕を緩め、桜の顔を覗き込む光秀の顔には、どこか諦めたような笑みが浮かぶ。
「本当に困った娘だ…お前は」