第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
「助けてください…っ」
桜の言葉を聞きながら、光秀はのんびりと二人へ近づいてくる。悲痛な叫びに、吉次が心外そうな瞳を桜へと向けた。
「桜様…それでは私が、無理矢理ここへお連れしたみたいではありませんか」
「そ、それは…」
「確かに、お前などにのこのことついていく桜の阿呆さ加減には驚くばかりだ」
光秀が同意して頷く。阿呆と呼ばれても、その通りだから仕方ない。
「だが、この小娘はそれでいい」
続く光秀の言葉に、桜は目を瞬かせた。
「いっそ清々しいまでの能天気さに、救われている奴もいる」
「それ以上、来ないでください」
吉次が、懐から短刀をだして構える。光秀が感心したように目を見開いた。
「ほう…俺に敵うと?」
「いえ。ただ少し大人しくしていて頂きたい」
言うが早いか、吉次はばっと振り向いて桜のもとへ駆け寄った。体を固くした桜を、その手に抱き寄せようとする。
「あッ…」
ばあんっ、と床板が震えて、 茫然とした吉次が仰向けに転がっていた。光秀が吉次を引き倒し、床へ思い切り叩きつけたのだ。
「触れるな、と言ったはずだが」
顔を覗きこまれて、色をなくす吉次から短刀を取り上げる。そのまま興味の無さそうに離れて、光秀は桜を引き寄せる。
「来い、桜」
「はい…!」
力強い腕が桜を一瞬だけ抱き締めて、離した。倒れたままの吉次の脇を、光秀は桜を庇うようにしてすり抜ける。
「ここで少し待っていろ」
小屋の入口で桜にそう言って、光秀は吉次のもとへ戻ると、小屋にあった縄で縛る。
「覚えていれば後で迎えに来てやる」
「そ、そんな…」
「暫くここで頭を冷やして、その情欲を無くすことだ…出来なければ」
ニヤニヤ笑いながら話していた光秀は、そこで言葉を切り、吉次に顔を近づけ声を潜める。その顔には一片の笑みもなく、静かな怒りがにじむ。
「あの娘に手を出そうとしたことを、後悔するだけでは済まさん」
真っ青になってしまった吉次を捨て置いて、さっさと小屋を後にした。