第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
翌日になって、しばらく吉次に目立つ動きはなかった。明るい内は桜は常に誰かと共にいたし、光秀以外にも不審に思っている政宗などが、それとなく見張っていたからだろう。
日が暮れ、桜が信長と共に戻り、騒がしい夕食が始まった。皆が酒を飲んで、吉次への警戒が緩んだ今。光秀もわざと桜を好きに行動させることで、隙を作ってやった。
桜が席を外した後、吉次が妙に高揚した顔で戻って来て、確信する。
…かかった。
何も気づいていないふりをして。桜を部屋へ送る役割も他へ譲り、部屋へ。
そして今。目論見通りに、吉次は桜を連れてどこかへ向かう。桜がいることに浮かれているのか、周りを全く警戒していない。
拍子抜けするほどの簡単な尾行。光秀は、桜の手を引く吉次の腕を切り落としてやりたい衝動に駆られながら、静かに歩を進める。
小屋の戸が閉まったのを確認してから、さっと小走りに入口まで駆け寄って中の様子に聞き耳を立てる。
桜を無事に連れ帰るだけなら、今開けたとしても問題はない。だが、奴を野放しにしてはおけない。言い逃れの出来ない所で乱入して、捕らえる。
小屋から聞こえる虫唾の走るような言葉を黙って聞きながら、吉次が桜に手を出すのを、待っていた…はずだった。
「触れるな」
一瞬、脳裏に吉次に組伏せられる桜の姿がよぎって。気付けば、鋭く声を上げていた。顔には決して出さないけれど、狼狽する。
しまった、早すぎる。
そう思ったけれど、もう遅い。目があった桜が、くしゃりと顔を歪ませる。綺麗なままの着物と、安心したような泣き顔に、光秀はふっと笑う。
まあいい…あの娘が無事なら。
「桜。どうしてもと言うのなら助けてやらんこともないが…どうする?」
俺を求めろ、桜。