第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
光秀が、吉次という男を最初に見て、まず始めに感じたのは、その笑顔への違和感だった。
客を迎えるその顔はにこにこと穏やかで、作り笑いであることは当然なのだが、それ以上に腹の奥に何かを隠しているような違和感。
吉次は、到着してすぐに桜に目をつけた。単に惚れただけなのか。桜を利用して為したい事があるのか。
判断はつかなかったが、光秀はこの男を何となく警戒していた。
一日目、夜。三成に送られてきた桜が部屋へ戻ってきてから、吉次が不審な動きをし始める。
まるで桜の部屋へ押し入る時をうかがうように、うろうろと廊下を歩き回って。それがいよいよ桜の部屋の前で立ち止まった所で、そばへ歩み寄った。
「こんな時間に、こんなところで何をしている?」
「い、異常等がないか、見回りを…」
「ほう?…桜の部屋に入ろうとしていたようにも見えたが」
「決してそんなことは。…まだ仕事がありますので、失礼します」
「ご苦労なことだな」
やはり。
あの男は危険だと、自分の中で確信する。声が聞こえたのだろう、桜が顔を覗かせたが、無理矢理部屋へ戻らせた。
桜に不用意に事を教えて、むやみに怖がらせることはない。
あれは、呑気に笑っていればいい。俺が動けばそれで済む。
桜の知らない所で濃くなる不穏な空気を一人背負って。光秀はにやりと笑った。