第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
あいつには気を付けろ、そう言われたことを思い出して、後悔するけれどもう遅い。やはり最初に、断るべきだった。
「吉次さん、何故ここに私を連れてきたんですか」
勇気を振り絞り、声をあげる。桜に近付くのを止めた吉次が、少し首を傾げる。
「花の話をしたはずですよ」
「ここに花があるとは思えません…」
「いえ、ありますよ」
ふふふ、と嬉しそうに声を上げ、吉次がまた桜へ一歩近づいた。もう、腕を伸ばせば届く。
「……っ」
逃げ道をさがして、桜は視線をさ迷わせる。桜の現状を知るものはいないだろう、自分で逃げなければ。
出入口は入ってきた戸だけ。窓はない。目の前の吉次をすり抜けて逃げるのは、難しい。
「私にとっての花は、貴女です。今宵、私が艶やかに咲かせてみせましょう」
ぞわ、と背中に寒気が走る。壁沿いに横に移動するけれど、どん、と手をつかれてびくりと動きを止めた。
「逃がしませんよ…昨夜も邪魔が入りましたので、もう我慢出来ないんです」
邪魔…?
その瞬間、暗い廊下に佇んでいた光秀の姿が浮かぶ。
光秀さん…っ!
思わずその姿に助けを求めて、目を閉じる。吉次は桜のその様子が、自分を受け入れるものに写った。嬉しそうに歯を見せて、桜へと手を伸ばす。
「触れるな」
その声に、おそるおそる目を開けた桜。吉次は、手を桜の目の前でびたりと止め、振り向いて入口を見ている。
桜も体をずらして、声の主を確認した途端に、安堵の涙で視界が霞む。
「み…つひで、さん…っ」
「桜。どうしてもと言うなら、助けてやらんこともないが…どうする?」
いつもと変わらないその意地悪な笑みが、今はとても嬉しくて。