第4章 ずぶ濡れの恋心<真田幸村>
「悪い…濡らして。寒くねーか?」
「大丈夫。幸村が飛びついてくるとは思わなかったけど」
「もうそれ忘れろ…」
ひと時の逢瀬を楽しんで、二人は桜が持ってきた傘を指して、佐助が待っているはずの長屋へと向かった。
「あ、佐助くんだ」
長屋の入口を開けたままこっちを見ている佐助に気付いた桜が、佐助に向かって手を振る。
すっと手を上げてそれに答えた佐助が、二人が近づくにつれて目を瞬かせる。
「桜さん、こんにちは。…どうして、そんなに濡れているのか聞いてもいい?」
「こんにちは。これはね、幸村がだむ!?」
抱き着いてきたから、と言おうとした桜の口を、幸村が咄嗟に手で塞ぐ。
何だろう、こいつにだけはさっきのことを知られたくない。
「何するの、幸村!」
「と、とりあえず中入ろうぜ。風邪引くだろ」
「…そうだな、入ろう。桜さん、これ使って」
佐助が、おそらくは戻ってくる幸村のために用意していたのであろう手ぬぐいを、抗議の声を上げていた桜に渡した。
「ありがとう、佐助くん」
3人で輪になって座って、幸村と桜は手ぬぐいで濡れた服を拭う。佐助は人数分のお茶を淹れ、髪を拭く桜をじっと見つめて、
「桜さん」
「なあに?」
「濡れてると、お風呂上りみたいで色っぽいね」
「ブッ」
お茶を飲んでいた幸村が、思わず吹き出した。