第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
「ここ、下りなくちゃね」
ぎりぎりと歯噛みしていた政宗は、桜の言葉に我に返る。斜面には木々も生えているし、慎重に行けば難無く下りられるだろう。
だが。
「桜、助けた俺に礼はないのか?」
「え!?…ごめん。ありがとう、政宗」
さっき、言ったけれど。桜の顔にそう書いてある。だが、政宗が欲しいのは言葉ではない。
「言葉はいらねえ。俺の願いを叶えろ」
「願い?…うん、できることなら」
「じゃあ、今からお前は俺の物だ」
さらりと言ってのけた政宗の言葉に、桜の頬がみるみる紅潮する。今までのような単に照れた顔でなく、どこか火照った嬉しそうな顔に見えるのは、政宗の勘違いではないはずだ。
「そ、んなこと…」
「たった今、俺が決めた…それにお前も、そろそろ俺を選びたくなって来ただろ?」
こいつが落ちた時こそ焦ったけれど、俺以外のやつの物になるのはやっぱり我慢ならねえ。
願いを聞き届けてくれた神か仏がいるのかは分からないけれど、政宗は都合良く心の内で前言撤回をする。
いつもの余裕を取り戻し、ニヤリと口端を上げる政宗から目をそらし、桜は赤い顔を俯かせる。政宗はそれを許さず、桜の顎をすくいあげると、無理やり目線を合わせた。
「桜」
「……っ」
「さっさと負けを認めて、楽になれ」
桜の潤んだ瞳が、政宗を見つめ返している。