第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
廊下の先は左右に折れ、右には玄関があり、左には部屋が並ぶ。ざわついている気配に、嫌な予感がする。
桜が帰ってきてたらまずい…!
だだだ、と走る吉次が、右を確認してから、慌てたように左へと方向を変えた。同じように走って来た政宗は慌てて立ち止まる。
「信長様!」
玄関に、眉をひそめた信長が立っていた。
「どうした」
「あの吉次という男、桜を狙ってます。早く…」
言い終わる前に、吉次が向かった先で悲鳴が上がった。信長の顔色がさっと変わる。
「桜か」
「…っ!」
無礼を承知で、信長の言葉を最後まで聞かずに走り出す。部屋へ向かうと、吉次に腕を強引に引かれ、部屋から連れ出されようとしている桜と目が合う。
「政宗っ」
「桜!」
混乱した顔のまま、しかし吉次に不審なものを感じて、踏ん張って抵抗している桜。
追いついて来た政宗の姿に焦り、苛立ちを募らせた吉次は、桜の懐に飛び込むと、桜の腹に当て身をくらわせた。ぐっと呻いて、顔を痛みに歪ませた桜は、そのままふっと気を失った。
気絶した桜を視界に写し、政宗はかっとなる。
身体中の血液がふつふつと沸騰するように、怒りがこみ上げて、自制が利かない。
「許さねえ…」
奥底から響くような低い怒声に、桜を抱えた吉次が笑った。
「どうします?斬りますか、私を」
「望みならそうしてやる」
抜き放った刀を煌めかせ、吉次が横抱きにしている桜を見る。
すぐに、助けてやる。
「…仮にも惚れた女だろ。何でそんな真似が出来る」
「貴方のような野蛮な方には言われたくない。桜様をお救いするなら、多少の無理はやむを得ないのです」
惚れたが故の思い込みか、はたまた元からの正義感か。陶酔したようにうっとりと話す様に、政宗は何を言っても無駄な事を察した。