第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*
「桜様…ですか。あの方は本当に麗しい」
「……」
「先ほども市でお見かけしましてね。家康様がいなければ、何処かへお連れ出来たものを」
邪魔された、と言わんばかりに顔を歪める吉次。
「本当にお心が澄んでおられる…、桜様は、あなた方には少しもったいのうございます」
「…どういう意味だ」
静かにあげた手で、刀に触れる。ちらり、と吉次がそれを見咎め、笑った。
「そのように刀を振り回す乱暴者は、お優しい桜様を悲しませるだけでしょう」
ピクリ、と政宗の眉が反応する。一瞬見えた顔はしかし、すぐに余裕ある笑みに変わる。
「そうかもな。…だが、お前のようなやつに桜を渡してやる義理もねえ」
刀の柄に手をかけて、政宗は一瞬考えた。宿全員が周知の上なら、きっと誰か見張りに立っていたはず。こいつ、一人。
「せっかく、静かに桜様を連れ出してしまおうと思っていましたのに…」
「させるか」
政宗が刀を抜くより少しだけ早く、吉次が湯呑みを一つ投げつける。入っていた茶がはねて、反射的に腕を上げて顔を庇った。
僅かに出来た隙に、吉次が台所から逃げ出した。
「おい!」
追いながら舌打ちする。
しまった、あの物腰の柔らかさにすっかり油断していた。
廊下を走る吉次に、刀を投げつけようかとも思うけれど、狭い廊下では思うようにいかない。